さわや書店 おすすめ本
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no.6352025/12/11UP
本店・総務部Aおすすめ!
タタール人の砂漠 ディーノ・ブッツァーティ/岩波文庫
全く接点のない話なのに、しみじみと納得させられる切ない物語。何が起こるわけでもなく、むしろ何も起こらないことがとても切なく胸に沁みる。
実感として誰もが感じるものの中に、年代による時間の長さの違いがあると思う。若い時はゆっくり流れていて永遠に続くかのように思われていた時間が、年齢を重ねるにつれ加速度的に速くなってゆき、気付いた時には取り戻せない。人生の何かに期待や憧れ、神秘や畏れを抱きつつ、ほとんどの人間はそれらに触れることもなく離れていく。その上で、そんな人生とはいったい何だったのかを、切なくも美しく描き出している。ほとんどの人が経験することのない設定にも関わらずよく理解できるのは、誰もがふと感じる普遍的な思いが、読む者の心に深く刺さるからだと思う。
