さわや書店 おすすめ本

  • no.632
    2025/9/20UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    珈琲が呼ぶ 片岡義男/光文社文庫

    とりとめのない音楽、映画の話に乗せて珈琲の香りが漂うエッセイ。年代も自分とは違うしあまり知らない話なのに、なぜだか妙に懐かしく、つまりいいエッセイだった。『コーヒー&シガレッツ』や『パルプ・フィクション』、『バグダット・カフェ』などの映画の話も出てくる。どの映画もあまり人には勧めにくいが、個人的には大好きな映画だ。
    珈琲は味や香りもさることながら、人、場所、空間が織りなす時間と空気感そのものの良さなのだと思う。こだわり豆だろうがインスタントだろうが、そこはあまり重要ではない。珈琲でも酒でも、その時代の、なんてことのないその空間が、かけがえのない美しさを放って思い出される時がある。
    カズオ・イシグロの「日の名残り」にはラストに、“夕方が一日で一番いい時間だ”というセリフがある。今のコスパやタイパを重視するような若い人でも、いずれはその美しさに胸を打ちのめされる時が必ず訪れる。