さわや書店 おすすめ本
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no.5502023/5/24UP
本店・総務部Aおすすめ!
父を撃った12の銃弾 ハンナ・ティンティ/文春文庫
かなり凄惨な暴力描写の一方、静謐で詩的な様式美がどことなく漂う。あまり説明することなく、父娘の過去と現在のストーリーが行き来する中、表現されているのは生きるそのものの美しさか哀しさか。贖罪かあるいは逞しさか。風景や自然の描写が深く心に残る。
主人公の父娘よりも、死んだ妻で娘の母リリーが圧倒的な存在感を放つ。娘が生まれてすぐに亡くなってしまうのだが強烈な個性でその後も父娘に多大な影響を与え続けてゆく。この物語全体がリリーの物語と言ってもいいだろう。
真逆だからだろうか、ハードボイルドと青春・成長小説がうまく同居する物語はそうそうあるものじゃない。ひとつ挙げるとするならば、個人的には北野武監督の『キッズ・リターン』が思い浮かぶ。本書もそんなビターな傑作青春成長ハードボイルドのひとつだと思う。