さわや書店 おすすめ本

  • no.532
    2023/1/12UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    天路の旅人 沢木耕太郎/新潮社

    この人物が盛岡にいて、つい最近まで生きておられた事に、まずは驚く。本書は著者が初めて取材に訪れた時の盛岡から始まり、最後も取材の盛岡で終える。
    孤高の旅人、西川一三。戦中から戦後にかけて、満州鉄道から内蒙古、チベット、ブータン、ネパール、インドなどを、ほぼ歩きで踏破する。本人いわく密偵ということになっているが、旅のかなり早い段階ですでに別のものになっていたはずだ。未知なるものへの探求心はもちろんありながらも、普通の密偵とも旅とも違う、本書に数多く出てくる修行僧にも似た生き方そのものへの探求。それはほとんど信仰に近い“行”だったような気もする。
    戦時中の日本も含めた中国と周辺国との関係性や、現在にも続く戦後の変化なども興味深い。ただ、一番心に残ったのは政治や人種に関係なく旅の道中で出会う、良くも悪くも、生身の人間の姿だった。