さわや書店 おすすめ本

  • no.508
    2022/6/10UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    旅をする木 星野道夫/文春文庫

    環境保護、動物保護、温室効果ガス削減、クリーンエネルギー、SDGsなど、世界は過去にないほど環境問題に取り組んでいる。そのどれもが正しくて素晴らしい事には間違いないが、どこか空々しい感じがするのはなぜだろう。
    この本は自然の営みや風景描写からダイレクトに著者の思いが伝わってくる。自然がどう在り、動物がどう生きているのか。生き物は必ず他の命を犠牲にして、それを自分の体内に取り入れることで生命を維持している。その事実を実感する事でしか本当の意味での自然への畏敬や、生かされているという意味を知ることはできないのかもしれない。
    コロナ禍で何でも取り寄せる生活に慣れてしまうと、自然からの気づきはほぼゼロに等しい。しかも取り寄せるためにはそれだけのガソリンを使い、容器を使い、包装し、緩衝材を入れ、段ボールに入れて、誰かが個別に配送をする。とても効率的とは思えないし、プラスチックを含めたゴミも多く出ることだろう。その一方でSDGsを訴えたりもする。
    そろそろ街中に出るのも観光地を巡る旅もいいだろう。そしてたまには人のいない場所で、泣けてくるような夕日が沈むのを眺めたり、おびただしい数の星空に、理解を超えた宇宙を感じたりするのもまた、自然から直接ものの在り様を教わるいい機会だ。