さわや書店 おすすめ本

  • no.464
    2021/6/25UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    津軽 太宰治/新潮文庫

    「ね、なぜ旅に出るの?」
    「苦しいからさ」で始まる本編の前の、長すぎる序編にもなんだか照れ隠しのような、長い言い訳のような好ましさ、東北人らしさを感じる。そもそも自分の生まれ育った場所を客観的に手放しで称賛できる訳がない。それでも伝わってくるこの土地へのこだわりと望郷の想い。
    頑固なのにくよくよ、シャイでガサツ、いい加減さと真面目さ、自虐性と自尊心、不器用な繊細さ、そして酒。そんな複雑な東北人の中でもひと際異彩を放つ孤高の存在が著者であり、津軽だと思う。
    今年は三内丸山遺跡をはじめとした「北海道・北東北の縄文遺跡群」が世界文化遺産に登録される見通しだ。もしかするとこの1万年以上前の精神文化も、津軽ではどこかDNAに受け継がれているのかもしれない。北東北にはその他、「白神山地」「橋野鉄鉱山」「平泉」などの世界遺産がある。今は難しいがコロナが収束したらぜひとも、しみじみと味わい深い北東北への旅を満喫してほしい。それまでは、本でのいい旅を。