郷土のおはなし・おすすめスポット

郷土のおはなし・
おすすめスポット

  • ー郷土のおはなしー

    no.08
    2016/7/13UP

    フェザン店・田口おすすめ!

    ヤマユリワラシ

    遠野供養絵異聞
    澤見彰
    ハヤカワ文庫

    『遠野物語』の舞台である岩手県遠野市では、江戸時代後期から大正時代にかけて、死者を追善供養するために描かれた「供養額絵」が寺院に数多く奉納された。寺院などが主導した弔いの形ではなく、地域に住む者たちが自然に行うようになったといわれている。「供養額絵」は、鮮やかに彩られ、一見すると死者を描いているとは思えない。凶作や飢饉が続き、多くの者が凄惨な暮らしを強いられた末に命を落とした時代だった。せめてあの世では幸せな暮らしを、という願いを込めて描かれ奉納されたそうだ。澤見彰著『ヤマユリワラシ 遠野供養絵異聞』(ハヤカワ文庫)は、不可思議な伝承が根づく遠野の風土を下地とし、「供養額絵」にまつわる物語を通じ、東北の厳しい自然の中を生き抜いた領民を描いた時代小説だ。モノノケ小説という枠から脱皮し、民俗学を下地とした物語を紡ぎ始めた著者の今後の活躍に期待したい。