さわや書店 おすすめ本

  • no.301
    2019/1/8UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    偶然の科学 ダンカン・ワッツ/ハヤカワ文庫NF

    本書を読んだ時、なぜか映画『ノーカントリー』を思い出した。10年ぐらい前に初めて劇場で観た時、あまりの意味のわからなさに茫然としたのを今でも覚えている。それから数年を経て『ザ・ロード』の本を読み、映画『悪の法則』を観たあたりで原作者コーマック・マッカーシーの言わんとするところがようやく理解できてきたように思う。これらの作品はクライムサスペンスのような顔をしながらも、実際には完全に文学作品であった。何の説明もなく事実のみを淡々と描写する、非常に乾いた表現でありながらも綿密に考え抜かれたストーリー。しかし、それらの全体像を解き明かすことが物語の主題ではない。
    歴史に“もし”がないのと同じく、私たちも一回限りで後戻りのできない時を生きている。純粋悪・シガーのコイントスに象徴されるように、未来が不確実な世界の中で、偶然や環境に大きく左右される儚い命。そして生を受けた全ての者は、老いや死からは絶対に逃げる事ができない。それでもなお、いや、だからこその生きる意味を観る者に問うている。
    前置きが長くなったが、本書は常識や美しいサクセスストーリーなど、過去の先入観に囚われることなく、現在の事実をありのままに見ることの重要性を繰り返し説いている。全く関係ないように見える上記の映画が、自分の中では神経のどこかでリンクした。