さわや書店 おすすめ本

  • no.294
    2018/12/11UP

    本店・総務部Aおすすめ!

    半席 青山文平/新潮文庫

    自分のためだけの独りよがりなプライドは邪魔になるだけで煮ても焼いても食えないが、人のために守るべきプライドはいつの時代でも美しく、人間としての真の誇りを形成する大切なものなのだと思う。
    本書の主人公は、罪人が罪を認めて刑が執行されるのを待つだけの状況で、“なぜ”その事件を起こしたのかを聞き出すという、頼まれ御用を嫌々ながらも何度か請け負う。そしてその過程で人の心の深淵に分け入っていくうちに、人としての深みを増して成長していく物語だ。
    出世だけを第一に考えていた男が、少しずつ自分自身の見識が変化して、忘れかけていた武家としての誇りを思い出す。そして最後には清々しい自分のプライドを見せるのである。時代小説の心が“なぜ”を解き明かすミステリー部分の核心になっていて、現代にも通じる非常に味わい深い物語だ。