さわや書店 おすすめ本

  • no.293
    2018/12/11UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    悪医 久坂部羊/朝日文庫

    今の僕は、こう考えている。癌になったら、治療はしたくないな、と。それは本書を読む以前から考えていたことだが、本書を読んでその考えがより強固になった。
    『さらに森川が疑問に思うのは、抗がん剤ではがんは治らないという事実を、ほとんどの医師が口にしないことだ(中略)
    しかし、大半の患者は、抗がん剤はがんを治すための治療だと思っているだろう。治らないとわかって薬をのむ人はいない。この誤解を放置しているのは、ある種の詐欺ではないか』
    もちろん、初期の癌であれば治療や手術で治るものもあるだろう。すべての癌が治らないというわけではないはずだ。しかし、「癌は治らないもの」と認識しておく方がいいと、本書を読めば理解できるだろう。本書は、「癌は治るはず」という希望を捨てられずに治療法を求めて彷徨う患者と、この癌は治らないから残りの人生を穏やかに過ごした方がいいと正しい判断をしたのに責められる医師の物語であり、双方ともに苦悩の時間を長く過ごすことになる。
    「正しい患者」になるために、全国民が読んでおかなければならない一冊だと思う。