さわや書店 おすすめ本

  • no.275
    2018/9/24UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    さくらんぼ同盟 松宮宏/講談社文庫

    松宮宏の奇想は留まるところを知らない。
    本書は、要約するとこうだ。
    「腋から謎の物質が摘出される奇病が板橋で頻発するが、その謎の物質が超絶美味で、“さくらんぼ”と名付けられ、日本中を大混乱に陥れる」
    相変わらず松宮宏の作品は、要約すると「そんなんで物語として成立するのか?」と思わされるのだが、これがメチャクチャ面白いのだ。“さくらんぼ”が摘出される奇病、という発想だけで物語を成立させようとするのではなく、そこに輪をかけてぶっ飛んだ状況や人物をこれでもかと重ね合わせて、誰も予想出来ない展開を生み出していく。
    設定や人物造形には「あり得ない!」と感じてしまうが、しかし松宮宏はそれらを妙なリアリティで描き出すことで、説得力を醸し出す。だから、荒唐無稽なのに、どこか本当に起こった出来事であるかのように読まされてしまうのだ。
    不思議な作品である。