さわや書店 おすすめ本

  • no.249
    2018/6/19UP

    フェザン店・長江おすすめ!

    奇跡の人 原田マハ/双葉文庫

    自分の言いたいことが相手に伝わらない場合、それを相手の理解力のせいにしたがる人がいる。もちろん、そういう状況はあり得るが、しかし仮にそうだったとしても、相手の理解力のせいにすることに意味はない、と僕は感じてしまう。
    何故なら、相手の理解力のせいにしたままであれば、永遠にその人に言いたいことが伝わらないからだ。
    その人に何か伝えたいのであれば、その人に伝わるように伝え方を変えなければならない。そう、「伝わらない」という状況は、伝える側に「伝えたい」という意志がある限り、伝える側の問題なのだ。相手の理解力のせいにしても、問題は解決しない。
    本書を読んで、改めてそのことを強く実感させられた。
    青森でも有数の富豪である介良家は、当主・貞彦を筆頭とし、大きな屋敷住まいである。そこにれんという、目が見えず、耳も聞こえず、口も利けない少女がいる。奥の座敷に幽閉されるようにして、獣のような扱いをずっと受けてきた。若くしてアメリカに渡り教育を受けた去場安は、彼女の教育係になった。三重苦を背負う少女といかに対峙しコミュニケーションを取っていくのか―その過程は、「伝えること」の本質を感じさせてくれる力強い物語だ。